第1回倫理委員会特別シンポジウムは最初の発題ということもあり、参加者から4学協会(北海道アイヌ協会、日本考古学協会、日本人類学会、日本文化人類学会)と本特別シンポジウムに関係について、いくつか質問がありました。
4学協会(北海道アイヌ協会、日本考古学協会、日本人類学会、日本文化人類学会)の「アイヌ民族に関する研究倫理指針(案)」のラウンドテーブルで協議は続けております。ですが、今回の特別シンポジウムは4学協会の議論をすることが目的ではなく、「アイヌ民族に関する研究倫理指針(案)」の作成過程を契機に把握した課題に対し、日本文化人類学会としての応答を熟議することを意図したものです。本学会の発行する学術雑誌である『文化人類学』(Vol.87 No.2)では、本シンポジウムの目的を「これまでの広い意味での文化人類学研究の営みを内省し、近い将来、学会からの謝罪表明を含めた見解を発表する」ためと記し、本シンポジウムの席上でも登壇者より、過去から現在に至る研究至上主義に向き合い、未来への展望を模索することを方針とするという発言がありました。過去から現在に至る研究至上主義が引き起こしてきた問題に真摯に向き合うためにも、まずは日本文化人類学会内での熟議を企図した次第です。
時間の関係上、今回のシンポジウムでは質疑の時間が取れないこと、そのためアンケートにご質問やご感想をお寄せいただきたいことを冒頭4分目前後でお伝えしておりましたが、その告知がなかった、あるいは十分でなかったととらえられた方からのご意見を複数いただいています。より明確にお伝えすべきであったと反省しております。他方、上記にもある通り、本企画の趣旨は、日本文化人類学会の会員として過去から現在に至る研究至上主義に向き合い、未来への展望を模索することにあります。もちろん、その過程でさまざまな方からのご質問、ご指摘を伺いながら、当面は学会内での熟議を重ね、さらなる展開を模索していきたいと考えております。今回のアンケートにお寄せいただいたご質問・ご意見も踏まえつつ、3回にわたる連続オンライン・シンポジウムを企画しておりますので、引き続き関心を払っていただければ幸いです。
まずは日本文化人類学会内での熟議を行うことを企図したのは、わたしたちが向き合うべき課題について、最初からアイヌ民族の方々に議論を委ねてしまうべきではないだろうと考えたためです。そのことは、アイヌ民族の方々との直接対話を避けたり、その存在を軽視したりすることを意図したものではありません。本学会倫理委員会内のアイヌ研究特別小委員会は、4学協議会内の議論にとどまらず、その他の団体・個人からの対話の申し入れにも積極的に対応しております。本シンポジウム後に実施した連続オンライン・シンポジウムでもこの経緯について説明を補いましたので、ご確認いただければ幸いです。
なお、第1回特別シンポジウムで共有された、本学会倫理委員会内のアイヌ研究特別小委員会メンバーからの発題と、日本・カナダ・アメリカでの経験を踏まえたコメントを踏まえ、連続オンライン・シンポジウムを企画しました。
シンポジウム後のアンケートへの回答は1年後まで受けつけております。学会員は現在1700名以上おりますので、研究大会に参加していなかった学会員との間でも熟議を重ねていくために、学会員向けのメーリングリストであるJASCA-INFOや、学会が発行する学術雑誌である『文化人類学』および『JRCA(Japanese Review of Cultural Anthropology)』をとおしてシンポジウムでの議論の内容を共有しております。学会員がこの課題に応答する時間を確保するためには、これだけの期間を設ける必要があると判断したためです。
『文化人類学』誌87巻2号ではその概要を説明しております。また、『JRCA(Japanese Review of Cultural Anthropology)』誌Vol.23No.1には関連する文献も掲載してあります。ご活用いただければ幸いです。
第1回特別シンポジウム実施後のアンケートに寄せられた44件のご意見のうち、日本文化人類学会としての対応に賛成が50%、是々非々が32%、反対3%、無回答11%でした(2022年7月31日開催の連続オンライン・シンポジウム第1回で共有)。
ご提案をありがとうございます。2022年度に3度の連続オンライン・シンポジウムの機会を設けますが、皆様からのアンケート回答も参考にしつつ、各回のテーマ・登壇者をお願いしております。
連続オンライン・シンポジウムとして、第2回「日本におけるアイヌ民族研究への文化人類学的アプローチ」(実施済み)、第3回「植民地主義的過去への反省と文化人類学」、第4回「文化人類学(者)の引き受ける責任とは/変化の可能性」という主題を設定しました。この一連の企画で提起された諸課題を受け、さらにどのような主題を展開するのかについては倫理委員会でも引き続き議論します。
これまでの研究至上主義が引き起こしてきた問題をめぐって、本学会の倫理委員会にとどまらず、シンポジウムその他の機会を通じて学会員のさまざまな見解を熟議することが、過去を直視し、その反省に立った未来への模索につながると考えております。
他の欧米諸国の学会の方針を把握しつつも、彼我の関係を先進・後進のような関係のみに収斂することなく、複数の応答可能性を模索したいとも考えております。引き続き関心を払っていただければ幸いです。