【2022年度 第3回日本文化人類学会倫理委員会シンポジウム】植民地主義的過去への反省と文化人類学
開催日時: 2023年2月12日(日曜日) 13:30開始
開催方法: オンラインのみ(Zoom)*日本文化人類学会員のみの参加となります
プログラム:
①趣旨説明(司会):伊地知紀子(大阪公立大学 教授)
②発表:中村平(広島大学大学院人間社会科学研究科 教授)
台湾先住民への日本文化人類学の調査と私の聞き書き経験―日本社会の脱殖民化と関わって―
③発表:鄭炳浩(韓国漢陽大学校名誉教授、元韓国文化人類学会会長)
日帝強制労働犠牲者の「70年ぶりの帰郷」ー記憶と追悼の公共人類学(public anthropology)
④コメント:坂田美奈子(帝京大学 教授)
松田素二(総合地球環境学研究所特任教授、元日本文化人類学会会長)
アドレス:アドレス:参加のZoomアドレスは2月10日(金曜日)の13時までに送信しますので、それまでに届かない方は迷惑メールのボックスをご確認ください
問合せ先:30thethicscommittee@gmail.com
本シンポジウムは、第56研究大会での「『アイヌ民族に関する研究倫理指針(案)』から考える、文化人類学の過去と未来にむけての展望」から1年間かけて、さらに三度のオンライン・シンポジウムを通じて日本文化人類学会員の熟議の機会を持とうという意図で企画したシリーズの一環です。
第2回目の「日本におけるアイヌ民族研究への文化人類学的アプローチ」(2022年12月10日開催)では、2本の報告がありました。山崎幸治さん(北海道大学アイヌ・先住民研究センター)からは、文化人類学者と形質人類学者が実施した「アイヌ民族綜合調査」(1951-53)の調査時の具体像が示されました。続く、北原モコットゥナシさん(北海道大学アイヌ・先住民研究センター)からは、過去の調査研究がアイヌ民族に与えた影響をめぐって、これまであまり耳を傾けられなかった被調査側からの声が開示されました。
この2報告から、今回の企画に関わるポイントとして、文化人類学者は今日まで、人種主義や植民地主義の当事者としての自覚と決別を経ていないために、国内外問わず支配・被支配の歴史性に無自覚であり、調査・研究・教育すべての面で基本的にこの問題を継承していることが示されました。
過去を振り返ると、文化人類学会として、学的発展と置き去りにされた声の間の断絶をなんとか繋げようとする試みが、これまで何度かあったことも事実です。それは、アイヌ民族の人びとらの問いかけへの応答を模索するものでした。しかし、こうした学会の取り組みが必ずしも現在まで学会員各位に継承され活用されているとはいえないかも知れません。今回の企画は、学会の軌跡を改めて振り返るものであり、また、アイヌ民族に関する研究倫理の問題は、アイヌ民族と文化人類学会という二者関係に限定されるものでもないでしょう。
第3回目のシンポジウムでは、植民地主義と文化人類学との関係を改めて問い、東アジアにおいてそもそも「調査」を成立させたものは何だったのか、その「成果」を継承することの意味と可能性について検討します。植民地支配と調査研究の関係は、調査者/非調査者という二項対立では成立しませんでした。調査を実施するには、多くの人びとの関わりが必要であり、調査地の現地協力者はその一例です。調査現場には、時代や社会ごとの権力関係が入り込むがゆえに、関係は複雑です。それゆえ、調査に関わる人びとの属性を対立的に捉えるのではなく、その具体的な様相に向き合う作業は何度も求められるでしょう。文化人類学に携わる者は、いかなるエスニシティ 、国籍、ジェンダー、身体であっても、過去から築かれてきた学知の上に立って調査研究を行っています。その意義を肯定する場合も否定する場合であっても、無関係ではありません。第3回目のシンポジウムでは、調査成果は誰にとってのどのようなものだったのか、さらにいかなる継承可能性が展望可能なのかを考えます。